第53章 大正“浪漫”ー伍ー
「………あなた…は…」
私は驚きのあまり放心状態だった。
『やっと会えた』
「え?」
『夢で見ていたもの』
阿国の眼差しは真剣そのもの。
「あなたが…?」
『私とあなたは奇しくも繋がっているの。私があなたの夢を見ているように。あなたが私の夢を見るように。』
その言葉に、驚いた。
『……会えて良かったわ。』
阿国が微笑む。
「待って、どういうことなの」
『わからない。でも、戻れるから大丈夫。』
私は訳もわからぬまま阿国の目に吸い込まれた。何もかもを見透かすような目だった。
『男の子のことは疑わないで。信じてあげるの。』
「…それ、無一郎くんのこと?」
『ムイチロウ…名前はわからないけれど。』
阿国が困ったように笑う。
「信じるも何も、無一郎くんはちゃんと帰ってくるって私知ってるの。でも…なにもしないでいられなかったから。」
『優しいのね。』
「…いや……。」
優しかったら、二日で呼吸覚えさせるなんてしないと思う…!!
『大丈夫。信じて、あなた自信を。』
「……私…?」
阿国はトン、と私の胸を叩いた。
『私も…私を信じてるもの。』
「………。」
阿国の過去はよほどのものだ。けれど、その全てを私は知らない。夢の内容は不安定にしか記憶していないから。
『大丈夫大丈夫。だってあなたは、私の…。』
「阿国?」
『私の✕✕✕✕✕✕だから』
風が吹いて、阿国の声が聞こえなかった。彼女が遠くなる。
「待って、阿国!!待って!!」
風が止まない。嵐のようにただ吹き荒れる。
「あなたはいったい誰なの……何者なの…ッ!?」
言い終わらないうちに、ドッと雨が私を叩きつけた。
突然の豪雨に、思わず立ち尽くした。
そこには誰もいなかった。
ただ、私だけがそこにいた。