第7章 彼方の記憶ー霞まぬ日の出ー
「治療ができず、皆がもう阿国のことを諦めて…数日間こうして放置した状態なのに…」
長男がぎゅっと膝の上で拳を握りしめる。
「阿国はまだ生きているんだ」
縁壱はそれがわかっていた。そう。彼女は生きている。
呼吸を使っている。回復しようとしている。生きようとしている。
包帯も手拭いも変えられなくて、布団に血が滲んで、腐敗も始まっているのに。
阿国は呼吸でその命を延ばしている。
縁壱自身が広めた呼吸によって。
「阿国、もういい」
阿国の眠る布団にしがみついて、縁壱は言った。
「もういいんだ、すまない、すまなかった。私が悪かった。すまない、しくじったのだ、私は。阿国、すまない。すまなかった。」
そう何度も言ったが、阿国は相変わらず呼吸を使用し続けていた。