第51章 大正“浪漫”ー参ー
何やってるんだ。
私は頭を抱えた。
我が屋敷の庭にぼんやりと雲を眺める幼い少年の姿があった。
あれだけ無一郎くんのことに悩んだくせに連れ帰るのかよ。うぅ、お館様に頼まれると何か断れない…ずるいよあの優しい声と微笑み強気に出れないよ。
……前世の私もそれにつられたのかな。いや、多分。
『無一郎は、に必要な存在だと思ったからだよ。』
この言葉の真意を知りたかったから…だろう。
お館様の言葉に嘘はない。
私はため息をついた。…しかし奇妙な運命だ。始まりの呼吸の剣士の末裔二人が一つ屋根の下で暮らすとは。
お館様はそれを知っている。私は知らなかった。前世の私は桜くんの残した研究データの本を読まなかったし…。
あれ、そういえば、燃やせって言われたけど結局燃やしたんだっけ。でもいつからか押し入れから彼の遺品であるそれは消えていた…。何でだっけ。
「あの」
突然声をかけられ、慌てて庭に目を向けた。
青い瞳が私を見ている。
「僕、何したら良いですか」
「……?」
「鬼を斬るには、どうしたら良いんですか。」
私はポカンとして彼を眺めていた。
……そうだ。連れ帰ったからにはちゃんと教え導かないと。
…けど、なに教えたら良いんだろう…?
「まあ…怪我が治るまで休んだらどうですか。」
「なら休みます。でも、いつになったら鬼を斬れますか。明日ですか。」
無一郎くんは庭から縁側に上がってくる。
草履をはいていない泥だらけの足のまま……。
「ちょぉーーーーーーっと待たんかい!!!」
「え」
私は水瓶まで走って桶に水をくみ、側にあった手拭いをひっつかんだ。
「お家に上がるときは、足を綺麗にしましょうね!!」
私が桶をぐいぐいと押し付けると、彼はそれを受け取って、足をごしごしと拭いた。