第48章 空模様
空模様が怪しい昼下がり。
数日間仕事に徹底的に取り組み、私は全ての依頼をやり終えた。仕事をやりすぎな件に関してはここ最近のことでよくわかっていたので、これから二ヶ月間休業することになっている。
『いいと思うぜ。洗濯物とか俺の飯とか考えねえでゆっくりしろォ。』
相談したとき、実弥がそう言うので抱きついた。すぐ引きはがされたけど大好きだ。
宣伝用のSNSでも告知をしたし、取引先やお世話になった人達にも連絡はバッチリ。書類整理に手続きも完璧である。
休業準備に手間取ったので温泉かマッサージにでも一人でのんびり行ってくつろいでやろうか、とでも思っていた矢先。
私は体調を崩した。
熱はない。ただだるくて、体が思ったように動かない。動いてくれない。
ここ数日体が動かなかった。一日のほとんどをソファで寝転んで過ごした。熱はないし咳も出ないので、風邪ではないようだけど…。
実弥がいよいよ病院に行こうと言い出した。明日は早くに帰ってきて連れていってくれるみたい。私のせいで申し訳ない。
寝転んでばかりいても退屈なので、絵でも描こうと思って体を起こした。…くらくらする。体が重い。歩くのも苦しい。
他人から依頼された仕事でしか絵を描いていなかったから、学生時代のように自由に描こうと思い立ち、ソファに座っててくてく歩き回るおはぎを鉛筆片手にスケッチブックにデッサンしていたのだが。
鉛筆が手から落ちた。
その時、急に体が重くなった。水の中にいるみたいにうまく動けない。
「にゃあ」
おはぎが鳴く。
青い目が私を見つめた。
『師範』
その目は愛しくて、懐かしくて。
『師範』
『師範は、いつも、僕の目を見なかった』