第43章 未到達
目を覚ました私は、嫌なものがこみ上げるのを感じて慌ててトイレに向かって走った。
吐き出そうとしたが、全く吐き出せない。出そうで出ない。でも気持ち悪い。それでも喉に込み上げる異物感がおさまらない。
「ゲホッ、ッう、あ」
私は喉奥に手を突っ込んだ。
こうなったら無理やり吐くしかない。
指が嫌な場所に届いたとき、やっと吐き出すことができた。
しっかりと除菌などの後始末をして、口をゆすいで歯を磨く。
洗面台で自分の顔を見つめる。戻したからか、顔色がひどい。
……夢の中であの“阿国”という少女の顔が見えた。
…どういうこと……?
何で、何で…?
私はズルズルとへたりこんだ。
あの顔…あの顔は……。
その時、私は後ろから何かを感じた。ごきっと腕をならし、力の限り握りしめて振り返った。
「うおッ!!!」
「!?」
実弥が私の拳を受け止めていた。
「お前…ッ何寝ぼけてんだよ!?」
「………?あれ…?」
実弥が私から手を離した。
「……ッてぇ…」
「え、あ、ごめん、私…手加減してなかった…のかな」
無意識だった。
「だ…大丈夫?痛む…?ごめん…ごめんね……」
「アホ、それよりお前だ。…戻したのか?とりあえず水でも飲め。」
実弥はヒリヒリするのか、受け止めた右手をぶんぶんと振り回しながら言った。
「…あ……ぅ…」
「何だよ?」
「た…立てない、の。ごめんね起こして…。大丈夫だから…もう起こさないから、眠って。」
完全に腰が抜けてしまった。
そう言いながら立とうとしたけれど、膝が途中で折れてしまう。
「ハァ…」
実弥がため息をつく。
そして私に手を伸ばしたかと思えば…。
「きゃあッ!!!」
「声がでかいわバカタレ」
実弥が軽く私を抱き上げた。
思わぬことに悲鳴をあげてしまった。
「ちょ、実弥くん!あなた明日もお仕事でしょ!?」
「だから何だァ。睡眠不足で死ぬなんてアホなことはしねえよ。」
実弥は私の部屋まで運んでくれて、水も持ってきてくれた。
「熱はねえ…よなァ。」
「ご迷惑をおかけします…。」
水を飲んでいる間に、実弥がいつの間にか私のソファベッドに寝転んでいることに気づいた。