第41章 隠し事
昨日と同じ時間帯に、ビニール傘を持ってパン屋に向かった。
「いらっしゃいませ…」
くるりと、中にいた店員が振り向く。私の顔を見て、パアッと顔を輝かせた。
「さん!」
「こんにちは、炭治郎くん。昨日はありがとう。」
「いえいえ!」
傘を渡して、それだけじゃ申し訳ないのでパンを買うことにした。
「さん、あんパンがオススメですよ、焼きたてです!」
炭治郎くんが言う。
あんパン……あんこか。実弥が好きそうだな…。
「じゃあ二つもらおうかな。」
「二つ…あ、旦那さんの分ですね?」
炭治郎くんの言葉に、私はぎょっとした。
「ま、まだ結婚してないから!!」
「?何で照れてるんですか…?」
「あー………。」
なかなか顔の火照りがおさまらない。弁明の言葉も見つからない。
私はあんパンの会計を済ませた。
「…あの」
「ん?」
「俺、さんともっとお話しがしたいです…。もう会えないんでしょうか?」
炭治郎くんがシュン、とした顔を見せたときに、ドサドサッと音がした。
何かと思って振り返ると、店の奥から大人の女性が出てきていた。足元には業務用の小麦粉が入っていると見える袋が落ちていた。
「……炭…治郎……その人は…知り合い、なの…?」
あぁ、まずいなと思った。
炭治郎くんも気づいたようで、顔を真っ赤にしていた。あの台詞はまずかろう。
「いや!!その!!母さん、この人は知り合いで!!最近久しぶりに会えてッ!!!さっきのは!!!違って!!!」
いやその言い訳は通じないだろう。
「えと…こんにちは、霧雨といいます。炭治郎くんとは…友達なんです。」
炭治郎くんは確か嘘が下手だったはず。
ここは私が頑張らねば。私も得意じゃないけど。
「炭治郎の友達…?それにしては…あの、失礼ですが…お年が離れてはいませんか?」
……確かに。今は何歳なのか知らないけど、社会人…というか、中学生か高校生みたい。