第39章 大雨
あなたは、激しく何かに怒ったことはありますか?
と聞かれれば、まあ…ないとは言いづらいのだけれど。
怒ってもいいことってないし、基本的に怒りたくないんだけど。
というか、私は基本的に怒られる側だし。
「………その、悪かったよ…この前のことは…。」
実弥が私に声をかける。
ここ数日、私は無視を決め込んでいた。
些細なことなのかもしれない。
けれど、些細なことにとても腹が立った。
ここ最近仕事が忙しくて、何かと後回しにすることが多かった。家事は二人で分担しているが、在宅ワークの私がやることが多い。やってもやらなくても実弥は文句言ったり褒めたり、そんなことは絶対にしない。
『、洗濯物』
ある晩、仕事から帰ってきた実弥がスーツ姿でベランダを覗いた。
それだけだった。
『………だから』
『だから…って、とりこまねえと』
実弥がベランダを開けて、洗濯物に手を伸ばす。
『お前、忙しいのはわかるけど仕事ばっかしてんのもどうかと思うぞ』
彼が振り返る頃には、私はソファでごろんと寝転がっていた。
『?』
実弥が顔を覗く。
『洗濯物なんて捨ててしまえ』
私はポツリとそう言って、それを最後に実弥と話していない。