第38章 従兄弟の記憶ー怒りー
少し反省した。
隊服についた土埃をパンパンとはらい、刀をおさめる。
「はー…だりぃ」
右手がヒリヒリする。
少し遠くを見れば、頬を腫らして寝転ぶあの子がいた。
「…痛いです氷雨くん」
笑顔でそう言われた。
「手加減できなかったんで」
隊服の上着を脱いで、その隣に座り込んだ。
「ッハーーーーー……ちょっと、死を覚悟しちまった…」
「…あなた、そんな話し方でした?」
「………」
本当は氷雨家で生まれたの人間ではなく、薄汚いところをさ迷っていた捨て子だと知ったら彼女はどんな反応をするだろうか。
「案外つまらない」
「何がです?」
「所詮、ガキはガキだった」
ため息混じりに言った。
今横で寝ころぶ彼女には何か特別な能力でもあるのではと期待していた。親を殴り殺せる力。鬼を斬り倒せる力。
けど、所詮、子供の力。
さっきめちゃくちゃに動いて筋肉を使った反動で首から下はピタリと動かなくなってしまい、ぶん殴って目を覚まさせればただの子供に戻った。
……怒って癇癪を起こして暴れただけ…。
ちょーっと、癇癪のレベルが高かったけどな。
「感情で動くな。感情で動く奴から死んでいく。」
「じゃあ、氷雨くんには感情がないのですか?」
そう聞かれ、鼻で笑った。
「あるけど、心は落ち着かせるもんだ。」
やっと殺気に当てられた体が楽になってきたので、立ち上がった。
動けないらしいのであの子をおぶる。
「氷雨くんは大人ですね」
「大人だからな」
11のわりには軽い体。
……あまり長くは鬼殺隊にいないだろうな。筋肉がないと、強さも維持しにくいだろうし。
「氷雨くんみたいな、お父さんが、欲しかった」
突然そんな声が聞こえ、ハッとしたけれどその時にはもう背中の彼女は夢の中。
「……つまんねぇ」
本当に普通の子供だ。
こんな普通の子供に、何であんな悲しいことが起きるんだ。
「………」
あとは隠に任せて、とっとと行こう。
余計なことを考えている暇があれば手足を動かせ。迷うから人が死ぬ。妻のように。
考えないように、考えないように。
私は、ただあなたという存在から逃げていたのです。