第6章 陰鬱
飛び起きた。
「ハーッ、ハーッ」
何が起きたのかわからない。私の体は寒くもないのに震えていた。寝ていただけなのに、息が荒い。
なんだ、あれ。
何なんだ、あの夢は。目の前に死体があって、ゴロンと生首が転がって。あの匂い、周りの血、どう考えたってホラー映画でも何でもない。
夢の全てを覚えているわけではない。あの、師範とか呼ばれたあの男の顔や、あの生首の男が何者なのかはわからない。
鮮明に思い出せないのに、あの惨たらしい死体だけが忘れられない。
呼吸も気持ちもなかなか落ち着かず、少し音を立ててしまったからだろうか。
隣で実弥が起きる気配があり、次の瞬間すぐにダウンライトがついた。
「おい、また起きたのかァ…?」
眠そうに目をこするが、私の姿を見てギョッとする。
「おい、どうした!?」
「………」
実弥が目の前にいた。
血は流れていない。頸もある。大丈夫だ。
「……スー、ハー」
彼の顔を見ていると呼吸も落ち着いた。
「起こしてごめん、もう大丈夫だから。ちょっと寝苦しくて…。疲れてるのかな。」
きっと仕事が立て込んだからだ。私はそう思うことにした。ここ最近の夢も、全部疲れていたから。それだけ、それだけ…。
「…ならいいけどよ。」
実弥が再び寝転ぶ。
「お前、なんかあったら遠慮なく言えよ。」
「うん。」
言ったって、しょうがない、夢を見てしまうのは仕方ないんだもん。どうしようもない。
(だって、夢を見ない方法なんてない)
疲れているから眠ろうとして、夢を見てしまう。
明日からも仕事はあるけど、あまり追い込まないようにゆっくりやらなきゃ。