第32章 新風柱の記憶ー先代の風ー
「先代の人はな、お前みたいに血の気のある感じじゃなくてな。それが霧雨さんと合ったんだろうな。」
宇髄はその二人について語る。一蓮托生、阿吽の呼吸。二人の間には言葉には表せないようなものがあったという。
「仲がいいわけじゃねえ。悪いわけでもねえ。でもあの人たちは組めば鬼殺隊でも最強って言われてたんだ。」
「……。」
「だからこそ、お前が現れて、あの人は確かに戸惑っていた。」
風が吹いた。心地よい風だった。
「ずっと側にいた風と全く違う風にあの人が初めて戸惑いを見せたんだ。」
全く知らない話だった。
戸惑う?あの人が?
「お前に特別甘かったんだよ。見てて面白いくらいにな。」
「はァ?」
「あの人、柱には厳しいんだよ。お前には甘々で悲鳴嶼さんが困ってたじゃねえか。」
…そういえば、何を言ってもニコニコして、何でもないみたいな態度だったからすごくむかついた時があった。
「なあ、不死川。」
「何だよ。」
「皆、死んでいくな。」
宇髄が言う。
「そうだな。」
けれど。
「その意思は何が何でも死なせねェ。」
だからこそだ。
抗って、抗って、立ち向かって。その果てに、誰も死なない平和な未来を。
「ハハッ、頼もしいな。」
宇髄はそう言って、立ち上がった。
「生き残れよ、不死川。」
「ああ。お前もな。」
宇髄が去っていく。
もうすぐ、最終決戦が始まる。
なあ、先代。あんた言ったよな。後悔しないように強くなれって。けど、俺は後悔がないとは言えねぇんだ。あんた自身、後悔したことがあるって言ったな。
後悔は、消えたかい。
消えないんだろうぜ。誰に何言われても、背負い続けるんだろうぜ。
俺は強くなった。あんたにも負けねえくらい強くなったつもりだ。
「霧雨さん」
悪い、俺は先代みたいにはやれねえわ。
でもいいよな。それが、今の俺。風柱なんだ。
「どうだい、俺の風は。」
まだまだですって言われそうだな。いやでも、あんたは俺に甘いから、良い風だって褒めてくれるのかもな。
「じゃあな。」
もうここには来ない。
否、来れない。
「霧雨さん、まだ終わっちゃいねえよな。」
あんたの意思は、想いは。
まだ、ここにあると信じてる。