第32章 新風柱の記憶ー先代の風ー
「いい墓だなあ。」
くるりと振り向けば、そこにいたのは宇髄だった。
音柱だった奴ももう引退し、欠損した腕や機能しない目が痛々しく見えた。
「この里、移動するんだろ?」
「…そうみてえだなァ。」
宇髄は俺の横に腰を下ろして墓を見上げた。
ここには誰も眠っちゃいない。遺骨は盗まれたからだ。何もかもを秘密にして、勝手にいなくなりやがった霧雨さんらしい墓だ。
「そしたらここに連れてきてくれる隠もいなくなるし、手を合わせることもできねえと思ってよ。来ちまった。」
「そうか。」
その通りだった。先日の襲撃のせいで、もうここは里ではなくなる。霧雨さんの墓は綺麗に残っていた。
が。
「刀がどっか行っちまったんだとよ。」
「刀…確かに、ねえな。唯一の遺品だったが…あの騒ぎじゃしょうがねえか。」
宇髄がうなずいた。
「時透は大丈夫なのか。」
「会議じゃ元気そうだったぜェ。本調子じゃねえんだとよ。」
「そうか。良かったなあ、霧雨さん。」
宇髄が空っぽの墓に語りかける。
「…大切にしてたもんなあ、あんた。」
時透はというと、あまり霧雨さんのことは覚えていなかったようだが。
「この…小せえ墓が例の子供の墓か?」
「らしいな。時透がまだ忘れてない時に作ったんだとよ。」
すると、宇髄はその墓にも手を合わせた。
「なあ、不死川。」
「あ?」
「先代の風柱って霧雨さんと同期だったんだよ。知ってるか?」
「…ああ。」
いつだったか。本当に遥か昔のように思える。
あの時の技を受けた衝撃は忘れない。怪我をしていたから不発だったようだが。
「お前が柱になった時、霧雨さんが戸惑ってたの知ってるか?」
「いや…。」
宇髄は霧雨さんと過ごした時間が長い。俺よりもあの人を知っていて当然だろう。