第29章 出会い
目を覚ました。
何だ、今の夢。スッゴい変な気持ち。何か話してたけどあんまり覚えてない…。
「……今何時?」
実弥の言う通り寝過ごしたらしい。リビングは真っ暗だった。起き上がると、毛布がかけられていた。…私のことなんて放っておいたらいいのに。
…風呂はいッ……たわ。晩ごはんの前にちゃっちゃっと入ってた。
ああ英断。さすが私。これで眠れる……。
けどなんか、嫌だなぁ。
すごく寂しいんだけど。夢のせいかな。
私はのそのそと歩いて実弥の部屋に勝手に入り、眠っている実弥の横に寝転がった。
目覚まし時計の音で目が覚めた。
目を擦ると、どすんと鈍い音がした。実弥が目覚まし時計を止めた音だ。
「もう朝ですかぁ…?」
私がぎゅむっと実弥にだきつくと、実弥は目覚まし時計に手を伸ばしたままぴたりと動きを止めた。
「…お前何してんだァ……?」
「寂しかったから来ちゃった~。あと五分ぐらい寝よ?引っ付こーよ……。」
「ふざっけんなッ!!!」
「ぎゃー!!やめて!!暴力反対!!DV!!お巡りさんこいつです!!」
「だ、ま、れ!!!」
朝からもみくちゃになって、ボサボサの頭で一緒にご飯を食べた。おはぎが不思議そうに私達を見ていた。
「お前いつからいたんだよ。」
「さあ?目が覚めたときから?」
「はあ、起こせよ…。心臓止まるくらいビビったわ。」
そう言われて、私は少し反省した。確かに、朝の忙しいときに悪ふざけが過ぎた…。
そうして実弥を見送るとき、何だか昨日のことが気になって声をかけた。
「大丈夫…なんだよね?」
「?何がだ?」
革靴の紐を結ぶ実弥が私を見上げた。
…昨日言ったこと忘れたのかな。……ていうか、しらばっくれてるの気配でバレバレなんだけど…。
「ううん。何でもない。いってらっしゃい。」
「行ってくる。」
私も知らないふりをして実弥を見送った。
実弥がバタン、とドアを閉めた。
残された私は、ぎゅっとおはぎを抱きしめた。
「どうしようおはぎ、実弥がおかしい。弱音は吐くし、そのこと覚えてないふりするし、どうしたんだろう。」
おはぎはただ、にゃあと鳴いた。