第1章 雨の中で拾った男
梅雨のせいか、ここ何日も雨が続いている。
ついでに、私の心も雨模様。なぜなら、私は昨日彼氏に振られたばかりだから。
泣きに泣いて、どうしたって引いてくれない腫れた瞼で出社すると、当然、皆から好奇の眼差しを向けられる。
営業職なのでこんな目じゃ人となんて会えない。課長に「事情はあると思うけれど」と前置きされた上で、さり気なく注意され、社会人としての未熟さを痛感しながら内勤の仕事で1日を終えた。
「はあ、憂鬱だ」
今日は金曜日でもう泣き腫らした目で出勤することもないだろうけど、これほど辛い週末は今まであっただろうか。コンビニでお弁当を買い、地面から跳ねた水で濡れたパンプスとストッキングが気持ち悪くて家路を急ぐ。
自宅のアパートに着くと、誰かが1階の軒下に座っていて、私は足を止めた。壊れた傘を地面に置いて、ほとんどずぶ濡れになりながらぼーっと座っている。
電球に照らされたその人は、男の人だった。グリーンに近いカーキ色のコートを着ていて、ふわふわのフードは季節外れな印象を受ける。髪は深みのあるネイビーで、片側から流していて、サイコロが連なったアクセサリーを左耳からぶら下げている。
顔立ちは整っているけど、ジーパンはデザインなのか、たまたまなのかところどころ破れていて、身綺麗とは言いがたい。
――誰だろう、この人。この家の住人?いや、こんな人見たことない。でも、どこかで見たことあるような気もするけど、私の勘違いかな。
私の部屋は2階だから、無難に会釈をして通り過ぎようとすると、その人から声をかけられた。