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Can you hear me……

第1章 Can't take my ayes


凄いんだぞ、と紹介されるのはあまり好きではない。その言葉がなくてもだ。仙石さんに関しては「アンタの方が凄いだろ」とそっくりそのまま返してやりたいくらいなのに。
自分がそんな器ではないことはわかっているのだ。

私が口を挟む前に、あれやこれやと人の経歴を話し始めた仙石さんの口をどう塞いでやろうかと策略を巡らせていたところに、スタジオの出入口が開いて大きな声が被さってきた。

「だぁから! 今日はまこがおらんで、しずくとやらしてくれって言ってんの!」

「大会近いし、やだ」

「お休みの日ならまこちゃんも来れたのにね」

どやどやと雪崩込んでできたのはガジュに清ちゃんとしずくの三人組。まこちゃんは平日だから群馬にいるのだろう。話の内容からするに、東京での大会が近いうちにあるようだ。
ここに来たということは、今は兵藤家のスタジオは埋まっているのかもしれない。時間があれば挨拶に行きたかったが、今日はやめたほうがいいかな。

仙石さんに気がついた面々が声をかけているのを横目に見ていると、いの一番にガジュが私に気がついてパッと顔を輝かせた。

「!」

「おうガジュ、呼び捨てかよ」

走り寄るガジュに仙石さんが怒る。けど本人はお構い無しだ。

「久しぶりだなー! なぁ、一緒に踊ろうぜ。今日まこいねぇんだ」

犬のしっぽが見える気がする。
まったくこの子は……しずく一筋かと思いきや、私なんかにまで声をかけてくるなんて物好きなものだ。
まぁしかし、ここに来たのは踊りたかったのもあるし、ガジュが一人なのであれば練習台として使ってもらうのも悪くない。

私が二つ返事で答えると、彼は喜んで早速更衣室へと向かって行った。後を追う形でしずくも続く。
だるそうにカバンを引っさげて清ちゃんが私の前を通り過ぎようとした。

「おかえり」

少し見下ろされるように、私にだけ聞こえるような声。

「ただいま」

返すと、満足そうに口の端を上げて笑い、更衣室へと姿を消していく。

私自身の口角も自然にふわりと上がっていくのが分かる。
緩む表情を悟られまいとスマホを取り出す。LINEが一件届いていた。パートナーからだ。内容は夜の練習についてだろう。見ずとも知れる。

湧き上がった少しの幸福感も一瞬にして消えた。
見なかった事にしてそのままポケットに突っ込み、足早に更衣室へと歩を進めた。
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