第5章 honey.5
気まずくなって視線をそらすと、リビングには静寂だけしか残らなくなった。
「…それはこっちの台詞だよ…」
「は?」
ぐっと拳を作った歩がズカズカとこっちに歩いてくるのを見て、俺はリビングから出て行こうとしたが、一足遅かった。
ドンッ!!!
「こっちの台詞だっつってんの」
リビングの扉に手を付いて、俺を囲った歩が決して大きな声ではなく、地を這うような声で俺との距離を詰める。
「くっ…」
こんな風に見られたら…。
ゾクゾクと背中が震え、視線を逸らすと、歩はそれを許さずに俺の顎をグイッと持ち上げた。
「なんで目、逸らすの?」
「逸らして…ねぇ…」
「………嘘つき」
俺の意識とは関係なく、体が震える。
真正面から歩の目を見つめ返すことが出来ない。
徐々に近づいて行く距離に、間近に吐息を感じても…俺の体は動かなかった。