第10章 ※雷が結ぶ夜※
今は何刻なのか、雷はおさまったのか、全く分からない。
今宵はこれからどうなるのだろう。このまま朝を迎えるのだろうか。それとも朝まで抱かれ続けるのだろうか。黒死牟の側にいられるのなら、どちらでも良い。
夢と現の境をさ迷いながら、キリカはぼんやりと目を開けた。傍らには夜着を纏った黒死牟の姿があった。
あれほど乱れたのに黒死牟はその名残さえも感じさせない。落ち着き払った態度にキリカは悪態をつきたくなった。
「今日は、苛めすぎです・・・」
責めている筈の声は砂糖菓子のように甘い。身も心も満たされたせいだろうか。
「おまえの・・・、望むようにしただけだが・・・」
「それは・・・」
滅茶苦茶にしてくれ、と言ったのを思い出し、羞恥に耳まで赤く染め上げる。行為の最中は無我夢中だ。終わった後、ふと思い出すと恥ずかしくて堪らなくなる。
「それにしても・・・,ずいぶんと淫らになったものだ・・・。そんなに・・・、まぐわうのが好きなのか・・・」
「巌勝様っ!」
堪らず、キリカが声を張り上げた。淫らになったのは夜毎、抱かれている所為だ。心身共に黒死牟に惹かれているから、そういった行為も好きなのだ。黒死牟も分かっている筈なのに。
「どうして、そんなに苛めるんですか?これでは、しばらく外に出れませんよ」
身体中に黒死牟が刻み付けた赤い花が咲いている。首筋に咲いた花は一際、鮮やかだ。着物では隠しようがない。
「酷いじゃないですかっ、今日に限って・・・」
「キリカ・・・」
キリカの抗議を遮ったのは、黒死牟のいつもより低く、真摯な響きを帯びた声音だった。揶揄するような色は鳴りを潜めている。
「おまえが・・・、読書に夢中で・・・、私の相手をしてくれないから拗ねておった・・・、と言ったらどうする・・・」
膝行し、六つ眼でキリカの目をひたと見据える。
「え・・・?拗ねる?」
拗ねる。凡そ似合わぬ言葉に面食らったキリカは鸚鵡返しに訊ねた。
「あぁ・・・。小説の中の男に心を奪われているのではないかと・・・」
ここ最近、キリカは暇さえあれば読書をしていた。続きが気になるあまり、黒死牟と話をしていても何処か上の空であった。褥も幾日も共にしていない。