第9章 ※湯殿の恋契り※
恥ずかしそうに俯くキリカの頭頂に黒死牟の手が伸びた。簪が抜かれ、惣闇色の髪がさらさらと音を立てて背に広がった。
「洗ってやる・・・、そこに座れ・・・」
促され、覚悟を決めたキリカは桐の椅子に腰掛けた。湯を掛けられ、頭から足の指先まで、くまなく洗われていく。
(気持ちいい・・・)
全身を洗ってくれる手つきは、ひどく優しい。まるで壊れ物を扱うようだ。キリカは、うっとりと目を閉じた。
やがて。湯が全身の泡を流していく。温かい湯がキリカの緊張を少しずつ解していった。
「女性は・・・、冷え性が多いと聞く・・・。肩まで浸かるのだぞ・・・」
二人で浴槽に浸かった。キリカは黒死牟の足の間に腰を下ろしていた。恥ずかしくて、一度も振り向けずにいる。こうやって風呂に入るのは初めてだ。どうして良いか、よく分からない。
一方、黒死牟は全ての眼を閉じ、気持ち良さそうに湯に浸かっている。
(・・・・・)
肌と肌と密着しているせいだろうか、キリカは自然と昨夜の睦事を脳裡に思い描いていた。黒死牟の情熱的な視線、囁き、愛撫。頬がだらしなく緩んでくるのを感じる。
「ずいぶん・・・、良い色になったな・・・。そろそろ上がるか・・・」
「・・・っ!」
ぼうっとしていたキリカは、黒死牟の声に我に返った。身体を捻るようにして振り向く。いつも以上に艶かしい黒死牟の面差しが、キリカの心を妖しく乱していく。
「あの・・・・」
気付くと黒死牟の右腕を掴んでいた。
(私ったら何を・・・)
腕を掴んだまま、キリカは視線をさ迷わせていた。今、自分は何をしようとしていたのか。鼓動が跳ね上がり、こめかみの辺りがドクドクと脈打つ。
「あの・・・、いいえ、やっぱり何でもないです。気にしないでください・・・・」
「そうか・・・」
しばしの間があった。そうしている内にもキリカの胎内に生まれた熱は心を乱していく。
ばしゃんっ。
湯が跳ね、キリカの顔に掛かる。黒死牟はキリカに覆い被さるようにして口付けた。
濃厚な口付けに二人の纏う空気は一瞬で淫靡な色を増す。
「んっ、・・・はぁっ」
身体をピタリと寄せ合い、互いの唇を貪り合う。