第5章 ※雨の蜜夜 とこしえの契り※
緩く、浅い抽送を繰り返される。痛みが次第に快楽に溶けていく。
「・・・っ、んっ・・・」
「キリカ・・・、頼みがある・・・」
「・・・っ、何ですかっ・・・」
「私が・・・、人であった時の名は・・・巌勝だ・・・。お前に呼んで欲しい・・・」
今となっては誰も呼ぶ事のなくなった、その名前を。
愛しいキリカにだけ呼んで欲しい。
「・・・っ、巌勝様っ・・・」
囁くような甘い声音が黒死牟の身体の芯を揺さぶる。快楽に任せて動きが激しくなりそうになるのを必死に堪えた。
「巌勝様・・・」
眉間に皺を寄せ、切羽詰まったような様子が何とも言えず艶かしい。そんな様子の黒死牟に、キリカは胸が高鳴る。夢中で何度も名を呼んだ。全身で黒死牟の存在を感じていたかった。
もう擦れるような痛みはない。奥まで突かれるたびに、キリカの声に快楽の色が混じる。
「愛している・・・、キリカ・・・」
「私もです・・・、巌勝様っ・・」
胎内で、黒死牟のものが一際膨らみ、そして弾けた。
大量の吐精を受け止めながら、キリカは目を閉じた。心地好い疲労感に意識が拐われそうになる。
「キリカ・・・」
名を呼ばれ、強く抱き締められた。充足感に包まれたキリカは、ゆっくりと意識を手放していった。
「・・・・・」
暗闇の中、キリカが目を覚ました。正確な刻限は分からないが、まだ真夜中だろうか。雨は止み、窓の隙間から月光が差し込んでいた。
気だるげに身体を起こし、自身の様子を確認する。
「あ・・・、こんな所まで・・・」
至る所に口付けの痕が刻まれている。全身をくまなく愛された記憶が肌の上に甦り、キリカの頬が赤く染まる。
「・・・・」
夜着を纏いながら隣を見れば、黒死牟は目を閉じていた。どうやら寝ているようだ。
「巌勝様・・・」
顔を覗き込み、そっと口付けた。そして、柔らかく微笑んだ。もう一度、口付けようとして、キリカが「きゃっ」と短い悲鳴を上げた。
寝ているとばかり思っていた黒死牟が腰に手を回してきたのだ。そのまま腕の中に閉じ込められる。