第4章 月神 夜陰のむざね
五日が過ぎた。
鈍色の空には分厚い雲が垂れ込め、今にも雨が降りだしそうだった。
時折、部屋を通りすぎる湿った風を遮断しようと、キリカは御簾を下ろした。
「はぁ・・・」
キリカは大きな溜め息をつき、ごろんと、床に横たわった。着物の裾が割れ、白い足が覗くが本人は全く気にしていない。
「退屈だな・・・」
黒死牟の屋敷に居候する事になったキリカは実にのんびりとした日々を過ごしていた。掃除や洗濯、食事の支度が終わると、特にする事がなく暇をもて余していた。
「今、昼寝したら後で寝れなくなってしまうし・・」
午睡を決め込もうとしたが、眠気は欠片も感じられない。ひどく億劫そうに半身を起こした。
(そう言えば、この前、黒死牟様と町に行った時・・)
書店で売られていた本や雑誌を思い出した。読書をすれば、良い暇潰しになるに違いない。
妙案を閃いたキリカの顔が、ぱっと明るくなったが、ある事に気付き、即座に暗くなった。
「私、字の読み書きが出来ないのよね・・。すっかり忘れていたわ・・」
全く出来ないという訳ではないが、学校に行った事がなく、読み書き出来るのは最低限度の語句だけであった。
「・・・・」
何度目かの溜め息をついた時。
「七回目だな・・・」
「こっ、黒死牟様っ」
振り向けば、こちらを覗きこむように立っている黒死牟と目が合った。
「いっ、いつから、そこにいらしたんですか?」
気配どころか足音ひとつしなかった。動揺を隠しきれないキリカは上ずった声で黒死牟に尋ねた。
「先刻からいたのだが・・・、お前の顔が百面相のようで愉快でな・・・。声を掛ける機会を逃してしまった・・・」
忍び笑いの黒死牟はどことなく楽しげな口調であった。
「それなら早く声を掛けてくださいよ。心臓が止まるかと思ったじゃないですかっ」
キリカは慌てて、乱れた裾を直した。さぞや、行儀の悪い格好をしていたに違いない。顔から火が出そうな思いだった。
黒死牟はキリカが身支度を整えるのを待って、部屋に入ってきた。キリカの正面に腰を下ろす。