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月神の恋人 【鬼滅の刃 黒死牟 R18】

第3章 月満ちる夜


夜の帳はすっかり落ちていたが人の波は少しも引く気配を見せなかった。

人混みにあっても、二人の姿は人目を惹いた。絵から抜け出してきたような美男美女の組み合わせにすれ違う人は皆、振り返った。立ち止まって呆然と眺める者。キリカに視線を奪われ、連れ合いの女性に小突かれる者。

だが、二人は気にせず、歩みを進めた。町の喧騒は耳に届かない。繋がった手の感触だけが全てだった。

いつしか、町を抜けていた。辺りには見た事が無いような幻想的な空間が広がっていた。

天から降り注ぐ銀の月光。大地は見渡す限り、咲き乱れる花々で埋め尽くされていた。

夜風が、たわわに咲いた花樹を揺らした。上からも下からも花吹雪が沸き起こる。甘い花の香りが風に舞った。

「きれい・・・」

歩みを止めたキリカが、うっとりと呟く。

「私、月を見るのが好きなんです・・・」

風が吹いた。キリカは乱れた前髪を指で押さえた。

「太陽の光は眩しすぎるけど、月の光は柔らかいから、とても優しい気持ちになれるんです」

天の月を眺めたまま、キリカが続けた。黒死牟は黙って、キリカの言葉に聞き入っていた。

「辛い事があった時は一晩中、月を眺めていました。月と月の光だけが私に優しかったんです」

ひとこと、ひとこと、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。

「申し訳ありません。こんなお話、つまらないですよね・・・」

苦笑して、キリカは黒死牟の顔を見た。そして、柔らかく微笑んだ。

「今日は本当にありがとうございました。こんなにきれいな着物は初めてです。大事にします」

低頭したキリカが、おもてを上げた。二人の視線が交わる。

芳しい夜風が、ゆっくりと吹き抜けた。

キリカの顔に、前髪に、花びらがひらひらと舞い降りた。一枚、二枚。次から次へと舞い降りてくる。

黒死牟の指が優しく一つずつ払う。触れられた所が熱を孕んだように熱くなった。

「そうしていると花の精のようだな・・・。愛らしい・・・」

今宵のキリカの美しさは格別であった。咲き誇る花々の中にあって、なお美しい。


















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