第5章 【エース】Flour of heart①
少し言い過ぎただろうか?
サユだって、エースとデートしたいし、たくさん遊びたい。それでもここで生きていかなくてはならないことも事実だ。
魔法も使えない自分にはこれしかその方法がないのである。
しばらくたってもエースがサユの方へ戻ってくることはなく、少しの罪悪感から彼の隣へと並んでみた。
それに少し驚いた顔をしたエースは、しかし照れくさそうな顔を浮かべて、懸命に草をむしっている。
「エース?」
遠慮がちにそう声を掛けてみれば、ぶっきらぼうな返事が返っていた。
やはり、先ほどの事で機嫌を損ねてしまったのだろうか?
サユは小さな声で「ごめんね」と呟いてみた。その呟きに、再び驚いたエースは「別に……」とこれまた小さな声で応える。
沈黙…。
無言の時間が過ぎて、デュースがいる場所がとても遠い気がして、夕焼けの空が近くに感じた。
エースは、チラッとデュースの方を見てから、サユに顔を向けると、彼女の名前を呼び、顔を上げたサユの唇に優しくキスを落とす。
一瞬の出来事に頭の整理がついていかないサユは思わず泥まみれの手を口に運びそうになり、慌ててそれを止めた。
「ちょっ……こんな所で……」
「こんなとこじゃなかったらいいのか?」
サユはデュースに見られたのではないかと気になって、そちらを見てみるが、彼は彼で未だ懸命に草むしりをしており、こちらの行動に気付く様子はない。
「そう言う問題じゃなくて……」
「今夜、お前の寮に行くから」
「えっ?」
「お前の部屋に行くから、グリムの事どうにかしておけよ」
突然の来訪宣言にサユは動きを止めた。
夜、来るという事は……グリムをどうにかとは……そういう事なのだろうか?
ちなみに、エースとキスをしたのはこれが5回目。
まだ片手で数えられるほどでしかなく、そう言った事に関し知識はあれどサユの経験値は極めて低い。
急な展開になりそうで、サユの心拍数が一気に上がった。
この後、草むしりなんてしている場合ではないとこに気付いたサユなのであった。