第4章 【トレイ】Eat me②
トレイに借りたスイーツのレシピ本を熟読し、いよいよ人生初のお菓子作りに取り掛かろうという気になったサユ。
とりあえず、何でも揃うと言われるサムのお店で材料を取り寄せた。
本を見ながら、揃えた材料を並べると満足そうに微笑んで、出来上がりを想像する。
トレイは喜んでくれるだろうか?彼よりもおいしいものはできないと思うけれど、気持ちが伝えられればそれでよいという事にした。
エプロンを付けて、腕まくりをし、気合を入れたところで一つだけ気になる小瓶がある事に気付く。
「これは、ハチミツ?シロップかなぁ?」
薄桃色の液体が揺れる小瓶は先日トレイの部屋で見た調味料と似ていて、きっと最近はやりの甘味料に違いないから、隠し味で使ってみることにした。
手を洗い、鍋を片手にしたサユは、やはり先ほどの小瓶が気になってその蓋を開けてみる。
……イチゴ?
………チェーリー?
う~ん……ただの甘味料と言うよりはフルーツ系の香りがした。
……桃かなぁ?色的にも。
サユは色々考えながら、小さなスプーンにそのシロップを掬い、一口食べてみる。
「美味しいっ、甘い」
今まで味わった事のないものに思わず舌鼓を打った。
それが何であるかも分からないままに、もう一口、もう一口と味見をする。
口にするたびに味の変わる不思議なシロップは、まるでトレイのユニーク魔法の様で心までふわふわした感じになった。
「トレイ先輩の味?」
訳の分からない事まで口走るようになった頃にはシロップはほとんど残っておらず、ふわふわした気持ちは実際のモノに代わっている。
身体がふわふわする……心地よい……香りと舌触り……。
サユがフゥと小さく息を漏らすと同時に、心臓が今までにないほどにドクリと脈を打った。
「何?……これ……」