第9章 初めての失恋(切甘、沖田)
『別れたいの』
そう告げた五十鈴は悲しげなまなざしをしていた。
そんな表情を見てこんなに苦しかったのは初めてだった。
引きとめる言葉も思いつかずにただ黙って見詰めていると、
『総さんと最後にキス…したい』
五十鈴は泣きながらそう言った。
一度も触れたことのない唇。
抱きしめることさえ、数えるほどしかしなかった。
沖田は少しとまどいながら彼女の腰に腕を回すと、その感触に一気に切なくなった。
動けなかった。
動きたくなかった。
「最後に…キスしてください」
石のようになっている沖田に、彼女はしびれを切らしてせかしてきた。
「あんたはいつも…せっかちなんでィ…」
両手で五十鈴の頬を挟むと、彼女は目を閉じた。
沖田は薄く目を開いたまま軽く唇に触れた。
ついばむように触れ、再び唇を合わせた。
はぁ…
長いことキスをしていると、苦しくなった彼女が色っぽい息を吐いた。
もっと深く、沖田は再び角度を変えてキスをする。
下唇を軽く吸い、その輪郭を舐めると五十鈴はまた息を吐く。
今度は上唇を同じように。すると彼女はさらに苦しげに息を吐いた。
本当に、愛おしくてたまらないと思った。
彼女が本気で引き離すまで、沖田は自分を止めることができなかった。
沖田は彼女との逢瀬を思いだして、また切なくなってしまった。
「あ~~~~~…
こういうの…もうどうしたらいいのかわからねェや…」
いつのまにか灰皿はいっぱいになっていた。
初めての失恋。
あとがき
キスシーンが書きたかったのです。でも舌は入れたくなかったのです←。最後だし、そんな気分にならないかな、と思いまして…。
気が向いたら復縁の話を書くかもです…。
しかし沖田さん口調難しくて、なかなか言わせたいセリフが言わせられませんでした…。