第6章 もってけ!武勇伝(ヘタリア/フランス)
駅前が一時騒然とした。
もちろんあのカップルもこちらを見ている。
視界が回復したアーサーは、五十鈴に気がついたらしく、動きが止まった。
お互いに呼び合うことはしなかった。
ただ悲しげに見つめ合う。
それはいいだろう。本人たちの問題さ。
俺の敵は彼女の隣に立つ、この冷酷な支配者だ。
「…今日、俺は人生で初めて後悔ってのをした…」
俺は、おろしたての絹のグローブを静かに外す。
「指輪をしない主義だってことをな!!!」
冷笑の貼りついた、その憎い顔面めがけて拳を振り下ろした。
強烈な泥とともに、憐れな男と言う勲章を、名も知らぬ貴殿へ。
後日
『彼と別れられたよ!
本当にありがとう。ところでフランシスさんってかっこいいね。今度紹介してね! 五十鈴』
とアーサーの携帯に絵文字満載のメールが入ったそうだ。
「…ってなんでだよ!
なんで駅で泥ぶつけて、男を殴ったお前がいいんだよ!」
そして、俺に食ってかかるアーサーがいた。
「…お前の辞書に、『女心』て文字がないからだろ」
結論、何が起こるか分からないからどんなときも準備運動を怠るな。