第1章 −嵐の夜に−
『お姉!!!』
『ミオ!早く!!』
失敗した。
これだけ天気が荒れれば足がつかないと思ったアタシが馬鹿だった。
風で森の木は妖しく揺れ、足場もいつもの何倍も悪い。
後ろからは魔女の殺気。
捕まればアタシ達は殺される。
魔女殺し兼、異端児として。
『もう・・・走れない、よ』
『ミオ、武器に!』
妹であるミオの手を強く引くが
それと同時にアタシ達を追って来た魔女が目の前に立ちはだかる
『早く!』
ミオは小さく頷くと目を閉じた
繋いでいた手は柔らかな体温を無くし、無機質なものへと変貌する。
「?!」
『行くよ、ミオ!』
可愛らしい少女が目の前でいきなりチェーンソーに姿を変えれば誰だって驚くと思う。
勿論アタシだって最初は驚いたし、母さんもびっくりしてたっけ・・・。
アタシ達は魔女と人間の間に生まれたハーフ。
魔女である母さんの血が強いアタシと、武器だった父さんの血が強いミオ。
どちらにも居場所なんてなかったけど、アタシ達家族はそれなりに幸せに生きてきたはず・・・。
ついこの間までは。
「諦めて投降しろ、サン!ミオ!例え逃げようともお前達がルーンを殺した事は覆らないぞ!」
〔私達じゃ・・・ないのに〕
『大丈夫だ、ミオ。犯人は絶対にアタシが見つける』
キツネの魔女ルーン。
優しくて、強くて・・・大好きだった母さん。
山奥に作られた家は知ってる者以外通さないよう、魔法で隠されていた。
父さんが居た頃はこっそり魔女仲間を呼んでお茶会をしていたみたいだけど、父さんが亡くなってから外界との接触を絶ってしまった。
生活は自給自足。
自分達で食糧を集めたり、遊んだり。
・・・・あの日もそうだった。
母さんに見送られて、2人で果物を探していた時
言いようの無い不快感と気持ち悪さを感じた。
嫌な予感がして急いで家に帰ると母さんは居なかった。
辺りに血飛沫だけ残して。
魂さえ無い。
まるで最初から居なかったように。