第1章 −嵐の夜に−
珈琲は母さんが好きで毎日淹れていた。
切らしていた事はなかったから今思えば誰かから買っていたのかも知れない。
無意識に香りを辿ると、椅子に座り眠そうにしているシュタインと香りの根元。
視線に気付いてかこちらを見るシュタインと目があった
「早いですね。良く眠れました?」
『疲れてたから』
「飲みます?」
冷たく答えるとビーカーに珈琲を注ぐシュタイン。
差し出された手前断るのも悪いかと受け取るとお決まりのヘラヘラ顔で話し掛けて来る。
「すいませんね、後で買いに行きましょうか。コップ」
壁に寄り掛かりながら珈琲を口に運ぶと独特に苦味と香りが口の中に広がって少し落ち着いた気がした。
「砂糖あったっけ・・・?」
『いらない。このままでいい』
ブラックを差し出した事からシュタインは砂糖を使わないのだと察して阻止する。
椅子に座り直し、こちらを見ている視線がアタシに刺さる。
『何?』
「いーえ。後でミオが起きたら朝ご飯でも買いに行きますか」
『呼び捨てにすんな』
「ハハハハハ」
アタシとしては本気で言ったつもりだったのだが、冗談にでも聞こえたのだろうか。
あからさまに呆れてみるもののこの男には意味がないようだった。
暫くして起きて来たミオと一緒に3人で必要なものの買い出しに出掛け、帰宅後は昨日言った通りのお勉強タイム。
職人と武器の責務やデスサイズと呼ばれる存在、そして死武専側から見た魔女の存在。
想像以上の情報量にミオは頭が痛いと愚痴っていたがアタシは楽しかった。
知らない事を知るというのは何にしても面白い。
そう言う意味ではシュタインと似てるかも知れない。
嫌だけど。
色んな事を知って一日ってこんなに経過が早いものなのかと改めて思った。
研究所に来て二度目の夜は直ぐに訪れ、昨日と同じ部屋で眠りにつく。
今日の勉強の最後に、シュタインが実地訓練について話して来た。
基本的な事以外は本来学校で学ぶものである為、明日・・・実技訓練を行い合格であれば明後日から死武専に授業を受けに行くという事。
情報を集める為にも今は我慢しなければ。
情報の為、ミオの為ならアタシは何にだってなれる・・・。
大丈夫、普段通りでいいって言われているし。
ここから、ここからだよ。母さん。
アタシ達頑張るから・・・。