第2章 宵の雨
アキオはわざと音を立てて苛立ちを見せるかのようにカップを置いた。
「帰ってきとらん。アイツは俺の息子じゃねぇ。お前を置いていくような薄情もんだ。自分の子供も信じられねぇ様なやつだ。気にするな。」
「…うん。」
はそれ以上返せなかった。
アキオの言っていることは間違ってはいない。だけど腐っても自分の親だ。
自分という存在を形成した2分の1を否定されて、ほんの少しだけチクリと針が刺さったような痛みを感じた。
もちろん、アキオはを否定したかった訳では無い。
を捨てた自分の息子が許せなのだ。
親代わりとして育ててきたもう1人の自分の子供として、悲しませることはしたくないという思いとその原因を作ったバカ息子を育ててしまった自分への苛立ちからだった。
は誰よりその事を分かっていた。
祖母は自分が8際の頃に亡くなり、祖父の手一つで育てられてきた。
夜中にトイレに起きると、祖父が酒を煽り一人で泣いているところを見た。
誰よりから親が居なくなった事を悲しみ、悔いていた。
だから、何も言えないのだ。
高い天井にぼんやりと消えた湯気。
外の雨音だけが聞こえた。
(お父さんは悪くない…誰も悪くない…悪いのは私が)
そこまで考えた時に思考が切られた。
「おめぇいつから店に出れる?」
「明日からでも大丈夫だよ。」
「そうか。なら、お前には夜出て欲しくてよ。6時から12時までいいか?」
「うん!任せて!」
この重たい雰囲気を吹き飛ばすようにどんっ!と胸を叩いてみせると、さっきの苛立ちは嘘であったかのようにアキオは穏やかさと少しの悲哀を滲ませた目を細めた。