A world without you【ツイステ長編】
第1章 one
どのくらい時間が過ぎたのだろうか。
ゆっくりと唇が離れていく。
熱くなった体にはフロイド先輩の冷たいそれが心地良くて。
離れていくのが惜しい様な そんな気になってしまう。
離れていった唇から微かに覗く先の尖った牙の様な歯をぼうっとただただ見つめていた。
すると、徐にフロイド先輩の手が私の顔の方へと伸びてきて きゅっと頬をつままれてしまう。
中々に容赦のない強い力で つままれている頬がびりびりと痛む。
「ほらねぇ、隙しかない」
「い、痛いれふ…」
痛みから、瞳の中にはじわりと涙の膜がうっすらとできていた。
そんな私を見て可笑しそうに にやにやと笑っているフロイド先輩。
「あー、もしかして小エビちゃん。俺の事イライラさせて 俺に絞められたくて わざとやってんの?」
"それなら大成功"
そうぽつりと呟いたかと思えば頬をつまんでいた手を離し、がばりと両手を背中へと回される。
抱き締められている様な そんな体制になってしまった。
と、同時に背中へと回された両手にぎゅうっと強い力が込められる。
ミシミシと自分の骨の軋む音がする。
このまま力を後少しでも加えられれば、骨はぽきりと容易く折れてしまうだろう。
そのあまりの息苦しさに、痛みに、思わず眉間に深く皺を刻んでしまう程だった。
「フ、ロイド…せんぱ…くるしっ…」
肺が圧迫されて、上手く息ができない。
話す事もままならない。
なんとかその腕から逃れようと必死に声を絞り出すが、その声も笑ってしまう程弱々しいもので。
「…このまま海の中に閉じ込めれたらいーのに」
私の声よりも更に弱々しく呟かれたその言葉が 私の耳へ届くことはなかった。
軽く酸欠の様な状態になって、目の前に白いモヤがかかり始めたとき、ふっとその腕の力が抜かれる。
その瞬間大きく息を吸い込んで、酸素を肺いっぱい取り込んだ。