第3章 1年A組の彼等
初対面の人にそんな事を言われたのは初めてだ
どうして分かったのだろうか
彼の言う通り、これは私の「顔」じゃない
毎朝整える、姉さんの「顔」なのだ
「……思い過ごしですよ
私は無理に笑ってるわけじゃありません」
嘘だ
私は無理に笑い続けてる
この8年ずっと
「大丈夫か糸仲?顔色が…」
「平気です、何でもありません」
それも嘘
もうずっと平気なんかじゃない
姉弟を失って、大事な思い出が詰まった家も壊されて、そしてそれが私の父親のしたことで
私は今にもバラバラになりそうで
苦しい
その時
グゥ〜
「「…」」
(お腹の音?)
「私じゃないですよ」
「ああ、俺だ……」
グゥ〜〜
また鳴った
「………お腹空いてるんですか?」
「(コク)」
「さっきファミレスに入ったのに?」
「(コク)」
「どうして何も頼まなかったんですか…?」
「……………財布を忘れた」
「……………………ドジだ」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、なんでも」
なんだか
この人は天然みたいだ
(抜けてる?ところがあるんだね……)
グゥ〜
「………」
「……良かったらうち来ます?ここから近いですし」
「いや、でも……」
グゥ〜
「……私はお腹の空いた人を放っておくほど冷たい人間じゃありません」
「だが、俺は男だぞ?」
「はい」
「そんな簡単に女の家に上がる訳には…」
グゥ〜
「そうやってグゥグゥと鳴り続けるお腹の音を聞くよりマシです
それにご安心を
私アパートなんですけど、部屋は相澤先生の隣ですから」
「相澤先生の?だから知り合いだったのか」
「えぇ、まあ腐れ縁というやつですかね」
グゥ〜
「………その、お邪魔してもいいか?」
「ふふ、どうぞどうぞ」
「すまない…」
1年A組で最も強い人と言われているのに、可愛らしいところもあるものだ
頬が緩むのを感じる
「……やっと笑ったな」
「何がですか?」
「いいや、何でもない」
「?」
この後、轟君は作った肉じゃがをとても美味しそうに食べてくれた