第1章 部長
窓辺で風に吹かれ、1本だけ伸びた髪の毛がそよそよと揺らいでいる彼の姿を、ずっと見ている。
『服部くん』
「うわっ!はっ、はひ!」
『なに、ちょっと声掛けただけじゃん。そんなにビックリする?』
「あっ、なんだぁ…明穂ちゃんか。…ご、ごめん」
『いーよ別に。』
私に話しかけられると激しく動揺する彼を見て、また、かわいいと思ってしまう。
こんなかわいい人が、私の彼氏さんです。
『その明穂ちゃんってやつ。そろそろ苗字呼びやめようよ』
「えぇ…だってなんか恥ずかしいんだもん」
『もう付き合ってどんくらいになると思ってんの!』「そう言われるとそうなんだけどもなんというか…」
ごにょごにょ小さくなっていく言葉尻にムッとして、私は言い返す。
『恒さぁ…私の事どう思ってんの?』
「へっ」
唐突な質問に目を丸くして、部長は、これまた気の抜けた返答をした。
『付き合って半年、やったこととと言えば手を繋いだくらい、いまだキスもせず、名前も呼ばない、こうやって放課後に、菜畑くんのいない日を選んでオカ研の部室でのんびりしてさぁ!』
…と一頻り言い終えて、部長の顔を見ると明らかにまずそうな雰囲気。
言いすぎたって自覚がじわじわ込み上げてくる。
「そ、そんなふうに思ってたなんて知らなかった…」
『知らなかった、ですってえ!?』
「あああ、違っ!誤解しないで欲しいんだよ!…俺がいくじなしなのもわかってる…けど…明穂ちゃんとこうしてのんびりするだけで、俺は十分幸せだったって、いうか…」
今度はこっちが予想だにしない返事をくらってぽかんとする。
…なんだ。部長は、いくじなしなんかじゃないよ。
『…そう』
「ごめん。怒った?これからは気をつけ…」
『いいよ』
その言葉を遮ると、私は部長に詰め寄って、唇と唇を触れ合わせた。
「〜*~Ⓞ∥¥#+=!?」
『お返し、ファーストキス』
「は、はうぁ…」
ふふっ、こんなに気が抜けちゃって可愛い。
『恒』
「ふぁい」
『ななこ』
「…ななこ…ちゃん」
『…んー、まぁ、ギリギリ合格』
「よかった…」
『恒、好き』
「…おおおお、おれも好きっ!大好きだよっ!」
窓辺から吹き込む風がふたりを包み込む。
どんな心霊現象も、私たち2人にはかなわないでしょ?