第3章 保田優哉
「ななこちゃ〜ん」
今日もまた、アイツが私を呼ぶ声がする。
『教室には来ないでって言ったじゃん!』
「デートのお迎えにきたんだよ?」
『違うでしょ!優哉がペンケースなくしたって言うから、一緒に買いに行くだけ!ほら、行くよ!』
ただでさえ背が高く十分に存在感がある彼は、顔も整っているためよけいに人目を惹く。
ざわつきだした教室から逃げるように、私は優哉の腕を引いて外へ出た。
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「おこった?」
『…怒った。』
「ごめんって、機嫌直して?」
『い、今、どこからお菓子を出したの…?
って、猫じゃないんだから。やめてよね!』
学校近くの文房具店を探して私たちは歩く。
さっき…デートなんかじゃないって言ったけれど、あれは嘘である。
私からしてみれば、彼とこんなに近くで一緒に歩くだけで、もう立派なデートだ。
…彼の方はどう思ってるのか知らないけども。
(はあ…私ばっかり考えちゃって、ばかみたい)
「あ、あった。ここ」
ぼーっとしていると、突然優哉が口を開いた。
私は慌てて上を向いて尋ねる。
『えーと。何買うんだっけ?』
「全部なくしちゃったから、全部買う」
『…お金あるの?』
「たぶんあるよ」
なんて大雑把な会話なんだ。
ふらふらお店に入る優哉をつついてやりたい衝動を抑えて、私も後ろを着いて歩く。
改めて後ろから見ると、優哉ってほんとに大きいなぁ…
身長もだけど、ダボッとした服を着てるせいで余計にそう見えるのかな。
優哉は小さなバスケットに目につくものをぽいぽい投げ入れている。
雑すぎる。
『もうちょっとさぁ。じっくり選んだりしないの?』
「めんどくさ〜い」
『だよね、知ってる』
「んじゃ、なんで聞いたの」
『…べつに』
そんなに早く選んじゃったら、私が優哉といられる時間も減っちゃうじゃん。
『あ、待って待って。このペンの方がいいよ。』
「じゃ、それにする」
私が選んだのは、最近女子の間で流行っている可愛いマスコットキャラクターがついたペン。
(そのでかい図体でそんな可愛いペン使ってみろ!)
という悪巧みだ。
…ちなみに、本人はそういうことを一切気にしないので、ノーダメージ。
むしろ、ダメージを受けたのは自分の方だった。