第6章 願わくば
しばらくすると、二人はダンスを終え離れていく。
その姿にひと息、ホッと…
ホッと?
安心している自分に気づく。
(やっぱ駄目だ。調子が狂う)
きっと、最近忙しいからだ。
すみれとお茶をしながら本を読んだり、勉強したりしてないから。
(書庫室で、まったりしたいさ…)
書庫室の窓際で、ティーセットを準備して俺を待つすみれを思い出す。
胸が、きゅっ と苦しくなる
「ねえ、少し宜しくって?」
思いを馳せていると、先程ウィンクを送られた金髪美女に話しかけられる。
「先程はどうも♪」
人懐こい笑顔を向けつつ、視線はすみれを捉えている。
すみれは窓枠に張り付いている…何してんさ?
しばらくそうしているかと思えば、ダンスホールを後にし、何処かへ向かいだした。
(…別に、すみれを見張ったり、追う必要性なんて全くない。目の前の金髪美女と楽しめばーー)
すみれの笑顔が、脳裏に浮かぶ
「悪い、急用なんで!」
気づけば駆け出していて、後ろで「はあ?!」なんて、お怒りの金髪美女の声がした。
すみれを探しつつ後を追うと、中庭の庭園に着いた。
池の前で、男と座り込んで話をしている。
その雰囲気が、先程の舞踏会とは違和感を感じる。
まるで、俺と本を読んでいるときの
素の すみれのようだった。
俺しか知らないはずの、すみれの顔を
他の男にも向けている。
心の中が ぶわっと、ざわつく
黒い、怒りのようなーーーーーー違う、これは
嫉妬、だ
二人の距離は近く、今にも手が触れそうだ。
居ても立ってもいられなくなり、二人に気づかれぬよう、ギリギリの距離を詰める。
(これは友として、心配しての行動で…)
すみれの髪からキラッと何か光る。
…俺があげたヘアアクセサリーだ。
こんな、舞踏会につけてくるような代物ではない。
毎日付けると言っていたが、わざわざ今日付けてくるなんて。
また胸がきゅっとなる。
自分の胸の痛みに気を取られていたら、二人は向き合い、男はすみれの頬に手を添えていた。
(…え?!ちょ?!)
すみれの顎をくいっと持ち上げ、男はすみれの唇へ吸い寄せられるかのように、自分のを重ねようとしたーーーーーー