第6章 願わくば
ディックと出掛けてから、数週間が経つ。
ディックの言った通り、あれから彼はたまに姿を見せるものの、すぐに立ち去ることが殆どだ。
どうやら仕事が忙しいらしい。
髪にはディックがくれたヘアアクセサリーをつけており、撫でるようにそっ…と触れる。
書庫室にいる時は、ティーセットとお茶菓子が定番になってしまった。
彼の分のティーカップも準備されているが、最後に使われたのはいつだったかーーーーーーー
「すみれ令嬢?
私とダンスを踊っていただけますか」
男性から誘いを受ける。
「はい、喜んで。」
パッと笑顔を作る。物思いにふけ込み過ぎた。
隣にいる叔母様が渋い顔をしている。
いけない、いけない。
今は舞踏会だ。
本日は叔母叔父に連れられて(出席したくなかったが)、舞踏会に来ている。
取引を広げるためと、私の出会いのために。
それに欧米人の叔父叔母と違って、アジア系の私はこのような場でとても目立つ。
残念ながら、容姿淡麗という理由ではなくて。
話題の1つになるので、私を連れ回したがる。
まるで珍しいペットのようだ。
(このダンスも何人目だっけ…)
取り敢えず、会話とダンスを言われるがままこなしている。