第16章 覚えておいて
「だってすみれが幸せそうだと、リナリーも科学班の奴らも幸せそうさ」
「――っ」
ラビの予想外の言葉に胸が詰まり、何も言えない。
「だから、その逆も然り。…すみれが辛そうだと、みんなも辛そうさ。
だから、皆のために幸せになるんさ」
「覚えておいて」と言うラビの翡翠色の瞳は私を映し、目を細めて微笑んだ。そして「忘れんなよ!」と照れ隠しでいつもの調子でニッと笑って見せた。
ラビの目を見て、ダグの言葉を思い出す。
―――――――“笑ってない、笑顔”
――――――“ガラス玉の、目”。
(…ちがう。違うよ、ダグ)
ラビは、ちゃんと笑ってる。
全然、ガラス玉の目なんかじゃないよ。
翡翠色の瞳だからかなあ。綺麗すぎて作り物みたい。だけど、ガラスのような冷たさや、割れた破片のような刺々しさなんて無い。
むしろ、ガラスをも溶かしてしまうような、熱さ…熱意が秘められている。
なのに、凄く優しくて――――胸がいっぱいになって、泣きたくなる。
切なくて、苦しくなる。
「――じゃあ、ラビも忘れないで」
「何を?」
「今の、笑い方。目を細めたり、瞑ったりする笑い方」
「は…?」
ラビはひどくキョトンとしている。
そうだよね。突然こんな事言われて、変な奴だなって、コイツ何言ってるのって、なるよね。
不審がられると思いつつも、口を止める事が出来ない。
「今日、というか。黒の教団に来てから、笑い方が柔らかくなったよ」
「…」
「覚えておいてね」
「…あぁ、そうさね」
どうか、忘れないで
覚えておいて
(―――――俺は、)
(今、どんな顔して笑っている?)