第16章 覚えておいて
以前ラビと過ごしたハロウィン、楽しかったな
…あの頃が、最後に幸せだったときかもしれない。
また暗い思考に陥りそうになって、リナリーに言われたことを思い出す。
『凄く思い詰めていそうな時がある』
ダメダメ、こんなんじゃまた気を遣われちゃうっ
「ト…トリック・オア・トリート!お菓子くれなきゃイタズラするぞー!」
自分の思考と纏う空気を変えたくて、無茶振りのような台詞を明るく元気いっぱいに言ってみた(ごめんね、ラビ)。
「ほい!」
すると目の前には黒猫の何かがあって、その美しさに只々目を奪われてしまった。
「……ありがと」
ラビから黒猫の何かを受け取ると、それは飴細工だった。
飴細工は今にも動き出しそうなくらい繊細に作られていて、それの瞳はラビと同じ翡翠色だった。
「……綺麗」
「だろ?思わず買っちまったさ」
「ラビからお菓子もらえるなんて思わなかったよ」
「え、トリック・オア・トリートとか言ったくせに?笑」
「うん 笑
…でも、本当、コレ。勿体なくて食べれないよ」
飴細工が美しいという理由だけではなくて。会いたいなぁと思っていたラビから貰ったという事が嬉しくて、勿体なくて食べられない。
「良かったさ!すみれ、ちょっと元気なさそうに見えたから」
「っ」
まずい
また気を使わせちゃう
「そっ、そんなんじゃ…っ」
「毎日、激務だもんな。ホント、あんま無理すんなよ?」
「わっ」
ラビはポンポンとすみれの頭を優しく撫でる。
「飴は、いつも頑張ってるすみれにご褒美さ♪」
「……うん」
罪悪感を感じる前に、ラビが私の暗い気持ちを掬い上げてくれた。
(ほんとに、もう…っ)
私の頭の上に乗っているラビの手が心地良くて、全神経が集中してしまう。
ねぇ、ラビ 知ってる?
女の子って、好きな人からの頭ポンポンって弱いんだよ
そんな私も 例外ではなくて
(好き、だなぁ…っ)
ひた隠していた気持ちが溢れ出す。
何でだろう、私、今。すごい泣きそう。
きっと情緒不安定なんだ、うん。
きっとそうだ。
悟られないよう、慌てて下を向く。
ラビの優しさと手のひらの温かさをずっと感じていたくて。
目と口をキュッつぐみ、涙とこみ上げてきた感情を押し込めた。