第16章 覚えておいて
「前も、こんな事あったよね」
「へ?」
一人悶々としていたら、すみれが話し始めた。
「2年くらい前に、ハロウィンで一緒に仮装した事あったじゃない?
…その時も私ってば薄着で。ラビにストールかけてもらったよね」
「懐かしいさね」
「〜〜私ってば、全然成長してない!一緒じゃない!」
あーもう!と、すみれは頭を抱え大袈裟に空を仰ぐ。
「ははっ、そんな事ねぇーさ」
あの時―――まだAKUMAや千年伯爵の存在を知らなかった時―――のすみれと、今のすみれは違う。
あの時のすみれも生きにくそうだったけど。
それでも人間の真の幸せを考え、いつか未来の幸せのために生きていた。
人間の醜さに幻滅し、くすぶっていたオレはそんなすみれに救われた。
「…すみれのおかげで、今は少しならリードしてやれるさ」
すみれがこうゆう祭り事の楽しさと大切さを教えてくれただろ?
――今のすみれは更に生き難そうで。
大切にしてきた事を、何処かに置いてきてしまっている。
「えぇ?どうゆうこと?」
「まー、昔よりは。オレが楽しませてやれるってコトで」
この世界で息がし難くなっていたオレを救い上げてくれたように、今度はオレがしてあげられたらいいのに。……くらいは、思ってる。
「ふぅん?…じゃあ、
トリック・オア・トリート!
お菓子くれなきゃイタズラするぞー!」
すみれは両手の爪を立て、狼のようにガォーと言ってみせる。
「…」
あぁ、やっぱり可愛いさーと思ってしまうオレは。やっぱり重症なんだと思う。
「…なぁーんてね!と、いうか!何か言って!恥ずかしいじゃないっ」
彼女はほんのり頬を染め、オレがノーリアクションだったことに怒ったふりをする。本人も気恥ずかしかったらしい。
しかし、そんな姿がどうも空元気に見えちまう。
「ほい!」
「え?」
「黒猫と魔女、どっちがいいさ?」
先程購入した可愛らしい飴細工をポケットから取り出し、すみれに差し出す。
「…黒猫」
「ドーゾ♪」
すみれは黙ってスッと飴細工を受け取った。
なんか、すみれの反応スッゲー薄くね?
え、すべった?
オレすべったの??