第16章 覚えておいて
「…夕方は冷えるさね」
巻いているマフラーを口元まで引き上げる。
昼間はまだ夏場の格好でも過ごせるくらい気温が高いのに、日が沈みかけると一気に寒くなる。
夏の終りと共に秋が訪れ、街道に立つ木々は紅葉し落ち葉の絨毯を敷き詰める。
先程購入した本を抱え、ヨーロッパの代表的な美しい街並みを歩く。ふと、子ども達が群がる屋台に目が留まった。
「いらっしゃ〜い!」
「ハロウィンの飴くださーい!」
「あたしはカボチャの飴!」
そうか、そろそろハロウィンの時期か
ハロウィンのモチーフで作られた飴細工が屋台を彩り、子ども達を引き付けていた。
「お兄さんも、お1つどう?」
繊細な飴細工を見ていたら、店員のオバチャンに声をかけられてしまった。
すみれとリナリーに買って、合流しよう。二人の買い物に割り込んでしまったし。
「ん〜じゃあ、白いオバケの飴と―――」
“白い” と “飴”
2つのワードでふと、修練場で見た事を思い出してしまった。
*
『団服、そこに置いておいて下さいね』
『あっ、ダグ!』
すみれが呼び止めるも、ちんちくりんのファインダーは振り返らず修練場の奥へ消えていった。
『すみれ〜♪』
『…ラビ、お疲れさま』
すみれは俺に話しかけられるも、名残惜しそうにアイツを目で追った。
羽織っているアイツの“白い”団服をそっと脱ぎ、そこにお礼のメモと“飴”を置いていた。
*
オレは自分が思っている以上に、すみれとアイツの関係が気になっているらしい。
「お兄さん、白いオバケと何にする?」
「―――いや、白いオバケは辞めるさ」
ファインダーの白い団服と被って見えた、なんて。何故か悔しくて、口が裂けても言えやしない。
「黒猫と、魔女の飴にしてほしいさ」
対価を払い飴細工を受け取り、団服のポケットに仕舞っていたら、
「ラビ!」
「お、すみれ!」
ひょこひょことすみれがやって来た。履き慣れないハイヒールのパンプスは少し歩き難そうだ。
…うん、今日のすみれはやっぱ格段に可愛いさ
軽口では言えるものの、本音としては口が裂けても言えねェって思うのは何故だろうか。