第16章 覚えておいて
「……リナリーは。ラビの事が、す、好き、なの?」
「え?」
緊張した面持ちでしどろもどろに問うてきたすみれに対し、素っ頓狂な返事をしてしまった。
むしろ、その問は私がすみれにしたいくらいだ。
「えぇ…?!ち、違うの?」
「違うわ」
「そ、そっかぁ!そ、そうなんだね〜!」
物凄くホッとした表情で胸を撫で下ろし、「この小物入れ可愛いね〜!」なんて言うすみれ。
…なんて分かりやすいのだろう。
可愛い
年上のお姉さんに、こんな風に思うのは可笑しいかしら?
すみれはとっても分かりやすい。
だから、ラビが入団してから変化が起こったことなんて皆気づいている。
けど、その根本はラビの何によるものなのか
「どうして急にすみれが変わったんだろうって、気になったの」
「そ、そんなに変わったかな」
「うん」
「すみれを変えるのは黒の教団のみんな……私や科学班のみんなだろうなって、思ってたから」
「――えっ?」
すみれが黒の教団に来た経緯は知っている。
今でも覚えている。
すみれが初めて黒の教団に入団したときを。
“科学班に、リナリーより年上の女の子が入団するよ”
兄さんに聞いたとき、すごく嬉しかった。
年の近い人が入団する事は少ないし、ましてや女の子なんてもっと少ないもの。
『リナリー・リーです!』
『…柳、すみれ です』
だけど、すみれはそんな私の握手を求めた手を握ってはくれなかった。
触れる事に後ろめたさがあるような、
ううん、それはまるで―――
「――怯えてたんだもの。黒の教団に来たばかりのすみれは」
「……そうだった、かも」
「教団生活の長い私が、守ってあげなくちゃって思ったの」
「そうだったの?!…ダメだなあ、私。リナリーにそんな事を思わせて」
「そんな風に思ったのは、最初だけだったわ」
「!、そうなの?」
「うん。…だって、すみれはすぐに科学班に馴染んでいったもの」
「う"〜〜ん。只々仕事の量に忙殺されてっただけなのもあるけど」