第10章 トリック・オア・トリート《番外編》
「ディック、ありがとね」
すみれは俺と繋いでいる手を、キュッと握る。
「何がさ?」
すみれが言わんとしてる事は、何となくわかったが、俺はあえて回答を促す。
「私、両親のお墓に足を運べてなかったの。いつも悲しくなっちゃって…
ディックが両親のとこに行こうって言わなかったら、ずっと行けてなかった。」
情けないよね、とすみれは頬を掻く。少し赤らんだ目を細め、苦笑いする。
普段見慣れない、少しだけ目を腫らしたすみれの姿にさえ“可愛い”と思ってしまう俺は、
やっぱり、重症だと思う
「…何となく、そんな気がしたさ」
「えっ、どうして?」
キョトンと、不思議そうに俺を見る
ああ、やっぱり可愛いなあ
「あんな楽しそうに父ちゃんと母ちゃんの話をすんのに。ちょっと寂しそうだったりするから、さ。」
ディックはハロウィン前日の、すみれの様子を思い浮かべる。
「墓参りは強引な気がしたけど。結果、そうして良かったさ!」
俺はニコッと大袈裟に笑ってみせる。
きっとすみれは俺に吊られて、満面な笑みで“ありがとう”って、俺に言うんさーーーーーー
と、思ったら
穏やかな柔らかい笑みを
優しい眼差しを、俺に向けていた
「ディックには、敵わないや
私のことなんて、何でもお見通しだね」
口元に手を当て、下がり眉気味でふふふっと笑う。
すみれは俺の両手を大事そうに取り、自分の胸の前に持っていく。まるで、神様に祈るように。
「だから、ね。
本当にほんっとーに!ディックのおかげなんだ。
ディック、ありがとう…!」
頬と目元をほんのり赤め、目を細め、穏やかな笑みを俺に向ける。
「今日は、ディックにお礼を言ってばかりだ。私。」
「…じゃあ、今日のハロウィンを。楽しませてくれれば、それで充分さ」
今の、すみれの笑顔を目に焼き付けたい。焼き付けるように、すみれに釘付けになる。
すみれはわかりやすい奴だと思ったら、俺の想像の斜め上をいく。俺の想像を裏切っていく。
すみれの礼に対して、ありきたりな事しか言えなかった。