第9章 終の始まりの鐘が鳴る
ドカッ バキッ
ドサドサッ
「…っ?」
ふと、急に男達に覆い被さられていた体が、軽くなった。すみれは恐る恐る目を開けると、少し遠くの方で男達が倒れていた。
「だいじょーぶさ?」
夜空から降ってきた声は、
「ディック……っ!!」
ディックはすみれを抱き抱え、起こしてくれた。
「怖かったろ、もう大丈夫さ。」
すみれは言葉を発しようとするも、唇がわなわな震えるばかりで、言葉を何も発することが出来なかった。
(ディック…)
助けてくれて、ありがとう。
すごくすごく、怖かった。
(ディック…!)
でも、私は助けられる資格なんて、これっぽっちも無くて。
「ディック…!!」
すみれの瞳から、今日初めて一筋の雫が流れる。一度流れてしまった涙は止める術も無く、次々と溢れ出す。
(あんなに怖い思いをしたのに。助けてもらえて嬉しかったのに。涙は止まらないのに。
……冷静な自分が嫌になる。)
すみれを抱き締めてくれている、ディックはいつもの子息の格好ではなく。
マントを羽織り、履き慣れていそうなロングブーツと、ラフな格好。
それはまるで、旅人のようだった。
使用人になったり、貴族になったり
旅人に、なったり
「…ディック」
「ん…?」
「ディックは、何者なの?」
私は、これからどうなるの?
ディックはすみれを抱き締めている腕を緩み、すみれの肩を抱く。
顔を合わせると、悲しみを隠したディックの歪んだ笑顔があった。
「知る覚悟は、あるさ?」
ボーン ボーン
ボーン ボーン
午後12時。
仮面舞踏会の終わりを告げる、鐘が鳴り響いた。