第9章 終の始まりの鐘が鳴る
扉には鍵が掛かっていなかった。
たまたまなのか。
それとも、絶対に立ち入られない自信があったのか。
(少なくとも、私が勝手に入るとは思ってなかっただろうなあ…)
ギィィ…
書斎兼仕事部屋の扉は、簡単に開いた。
南向きの窓から差し込む朝日が眩しい。
叔父のデスクへ近づくと、仕事の経理関係のものや、地方新聞や顧客リストが散乱していた。
すみれはまず、経理関係書類へ手を伸ばす。決算書を見れば、お金の動きがわかるはずだ。
「………っ」
数字を何度も確認するも、売上や資産状況は良いとは言えなさそうだ。
“事業が上手くいっていない”
残念ながら、その噂は本当のようだ。
損益通算書を見ると、損があまりにも大きい。その内訳を見ると、施設費やら接待費等が大半を占めていた。
すみれには思い当たる節があった。
(この損は、おそらく…)
二人の金遣いの粗さだろう。
ここ数年。
仕事の必要経費と言いつつ豪華な調度品を購入したり、接待と言いつつ豪遊したりしていたのは、すみれの目から見ても余るものだった。
(事業を疎かにしてたんだ…)
二人の金遣いが酷くなった頃から、資産や売上が伸び悩んでいるようだ。
思わず、手にしている書類等をギュッと握りしめてしまいそうになるが、何とか抑える。
しかし、事業の売上を遥かに超える、巨額な振り込み金の記録がある。
(この巨額な金額は…?)
事業とは別の資金のようで、詳細がイマイチだ。
何か手掛かりを見つけるために、すみれはゴソゴソと叔父の机の上、引き出しを漁り出す。
ある引き出しを開けると、そこにいくつかの通帳が存在していた。1つの通帳に目がとまる。
すみれの、名前のものがあった。
「えっ、どうして…?」
何故なら、その名前は
“柳 すみれ”
すみれの両親が健在だったときの、名字の名だった。
そしてもう1つ驚いたのが、通帳の表紙にすみれの名とは別の名前があった。それは叔父の名前で、叔父の名前の前に書かれていた、
“未成年後見人”
という、言葉。
どうやらこの通帳は、すみれが両親の遺産を相続した資金の通帳のようだ。
しかし何故、すみれの名字が以前のものなのか。