第8章 前兆
「ご、ごめんね。プレゼントがささやかすぎて」
「……刺繍は、すみれが?」
「そうだよ。おめでとうって気持ちが、伝わればいいなって思って…!」
「……」
思わず、刺繍に見入ってしまった。
パッと見はロゴだと思ってしまうくらい丁寧に、そして綺麗に刺繍されている。
「で、でも!手作りに拘り過ぎちゃったかな?!」
俺の反応が遅れ、何も示さないことにすみれは焦りだす。
そんなすみれの手をよく見ると、いつも綺麗な手にペンだこはあったものの、指し傷や切り傷等が追加されていた。
(ああ。慣れない事を、一生懸命やってくれたさね…)
自分なんかの為に、どれだけ時間をかけて頑張ってくれたのだろう。
申し訳ない気持ちと
それを遥かに上回ってしまう、嬉しさ。
ぎゅううっと、両手で持っているハンカチに力が入ってしまいそうで、抑える。
「…ッ、ごめんねっ!やっぱり返してーっ!!」
「やだ」
すみれが伸ばした手を、俺はひょいっと避ける。
「すみれは器用さね。こんなことも出来るんか」
俺は刺繍をまじまじと見る。
「う…そんなに見なくていいよ!」
「めっちゃ嬉しいさ!…大事に、使う」
「!…ありが、と」
すみれは安心して、ほっとひと息つく。
貰ったハンカチの刺繍で、1つ。
小さな控えめのモチーフに、俺は目を見張る。
(これはーーーー)
「だけど、これは駄目さね」
とある1つの、刺繍を指差す。
「え、やっぱり気持ち悪い?!」
「は?違うって!刺繍の、ここさ!」
俺が指差したのは
向日葵の、刺繍。
「向日葵、さ。花言葉、有名だろ?」
(俺だから、良かったものの…)
向日葵の花言葉は、
崇拝
愛慕
私はあなただけを見つめる。
(自惚れちまう、さ。)