第2章 優しい思い出【過去編】
思わず彼の元へ駆け寄った。
『ど、どうしたの?何があったの?』
「‥‥何でもない」
彼の左目周辺に、今まで見たことのない大きい火傷の痕が付いていたのだ。痛々しく錆色に皮膚が変化している姿にも驚いたが、以前の穏やかな表情は一切なくなり、険しい表情になっていることに驚く。とてもじゃないが、大丈夫ではない。
『…怒ってるの?』
恐る恐る率直な疑問を投げかけると、彼はその問いには答えず、しばらくしてから淡々と話し続けた。
「僕、もうすぐ、幼稚園いかなくなると思う」
『…え?』
突然の事で思考が追い付けないでいた。それは、彼が大きいケガをしたことが原因なのか、それとも他に何かあったから、なのだろうか
『けがしたから?』
「‥‥それよりも、お父さっ、」
何かを言い淀むと、それは何かの憎しみに変わり、顔が険しくなった。
「…アイツがもっと個性くんれんしたいみたいだから、幼稚園はもう行くなって言われた」
『アイツ…?』
多分お父さんのことなのだろうか、お父さんから訓練を受けているって言ってた…それにしても幼稚園に行くななんて、
「…それに、僕ももっと個性をつよくしたいし、」
『…』
何か確固たるものが彼にあるのを感じ、思わず何も言えなくなった。別に悪いことではないはずなのに、何故か胸騒ぎがする。どうしてだろうと思い考え込むと、以前に彼が言っていた言葉を思い出した。
(…うん、がんばって個性をつよくして、かっこいいヒーローになりたいから)
あの日の言葉と同じだ。ただ、何かが違うように感じた。あの時は、純粋にヒーローになりたいという強い憧れを感じられた。でも今は本来の望みを忘れて、憎しみや怒りに身を任せてしまっている気がする。
いやな予感がして、思わず声をかける。
『しょうとくんはそれでいいの?』
「‥‥いい」
『でも…しょうとくん、つらそうだよ? おとうさんとおはなししたほうが…』
その先を言おうとした瞬間、彼の地雷に踏み込んでしまったのか、私への視線は一気に厳しいのと同時に、辛い表情を浮かべていた。
「…ほっといて」
『え?』
「無個性のさやちゃんに何がわかるの…ほっといてよ!」
『あ…』
悲惨な叫びと共に私の手を振りほどいて、行ってしまった。
彼の後ろ姿が頭から離れなかった。