第5章 出会いと再会【原作編(入学)】
私の前には1年前に振られた相手である彼が立っていることに、驚きが隠せなかった。どうして、よりによって、貴方を過去の思い出にしようと、一歩踏み切ろうとしていた時に会ってしまったのだろう。
「…一条、」
自分の苗字を呼ばれ思わずビクッとする。あの頃と同じトーンで自分を呼ぶ声。何も変わってないのに、もう過去のように感じられ、気軽に挨拶すらできなかった。
『あっ…、』
彼も私だったことに驚いているみたいだった。でも、私はそれ以上に目の前の出来事に反応する事ができなかった。
「沙耶!大丈夫?」
自分の呼ばれる声が聞こえ、ハッとする。私は彼の顔をちゃんと見ることが出来ず、目が泳いだままだった。
『じゃ、じゃあ、私は、これで…』
「……」
彼と今更何の話をするというんだ。告白した瞬間、もう関係は終わったはずだ。これ以上彼といても迷惑になるだけだ。そう思い彼のもとを離れていった。頭の整理がつかないまま彼女の前に立つ。
「…なんかあったの?」
『どう、しよう…』
「?」
私は彼女に縋りつくようにさっきまでのことを話した。
「はあ?マジで?振られた相手に会ったって話、」
『うん…さっき偶然会って』
「ってか、そいつの志望校とか聞いておけばよかったんじゃないの?」
『ごもっとも、』
彼女の言う通りだ。告白後、未練を断ち切り受験のみに集中するために、轟くんに関する情報をすべて遮断していたことがあだになってしまった。まさか再会してしまうなんて、
『はぁ…気まずい…』
同じクラスじゃないから、会うこともほぼないかもしれないが、彼が雄英にいると知りながら通うのでは、全然違う。
「でも、案外アンタにとってはいいことじゃないの?」
『いいこと?』
「どっちにしろ、ヒーローと関わる仕事するなら、ソイツと会うのはどっちみち避けられないでしょ、」
『うん』
確かにそれはそうだ。でも、まさかこんな早く再会してしまうとは思わなかったのだ。少なくても高校時代は会うこともないと思ってたのだが、
「てか、時間大丈夫なの?学級委員長」
そういいながら彼女は時計に指さしていた。
『あ、この後先生に呼ばれていたんだった!』
とりあえず、彼への対策は後に考えていこう。