第2章 優しい思い出【過去編】
「あなたは【無個性】ですね」
5歳の頃、お医者さんから言われたその一言で、私の人生は大きく変わった。母はいつしか冷たい表情を浮かべるようになり、私が通っている幼稚園の友達は、【個性】が多数発見され、それまで仲の良かった友達との話題が合わなくなっていった。
『何の話?』
「沙耶ちゃんは無個性だから、あっち行ってて~」
軽くあしらう仕草に、私は初めて差別というものをこの身で体験した。
悲しい。
つらい。
最初はそう言った自分の素直な気持ちを伝えられたと思う。でも、私の意見は次第に無視されていき、どんどん孤立していった。
ある日、ある男の子グループに目を付けられ【個性】を使いたいという理由で、私を利用したいじめが始まった。
『いたいっ、やめて!』
彼らの【個性】の大半が人体に被害が及ぶものであるため、怖いと察知し抵抗しようとするも、どうしても力の差が及ばない。その現状が悔しかった。
「みろよ泣いてやがるの!」
「よしもっといじめようぜ」
笑い声が響き渡りくじけそうになる。私は思わず目を瞑る。誰か助けて_______
その瞬間、空気が凍ったかのように寒気がし、何かが作りだされた音が聞こえた。思わず目を開けると、そこには一人の男の子が立っていた。
「な、なんだよこれ?!」
「う、動かねぇっ!」
いじめていた男の子グループは、氷によって足場が固定されて動けなくなっていた。さっきの寒気は恐らくこの影響なのだろう。
『…だれ?』
左右の髪が白と赤で、整った顔をしている男の子は、私の疑問に答えず、じっと男の子グループを見つめていた。何もできない彼らは次第に焦り始めて、声を荒げた。
「な、なんだよおまえ!これ溶かせろよ!」
「…ちゃんと謝って、この子に」
すると有無を言わせないかのように、右手からまた同じものを作り続けようとしていた。助けて(?)もらった立場の自分でも寒気がするほどの容赦のなさだった。
「わ、わかったよ!謝るから!謝るから!!」
小さい声でごめんと告げると、ようやく理解したかのように今度は左手から炎を作り、足場の氷を溶かしていた。覚えてろよと逃げていく彼らを他所に、思わずその男の子の顔を見つめる。すると、先ほどの容赦のなさから一変し、振り向いた。
「大丈夫?」
これが彼との出会いであった。