第11章 逃走と真実【原作編(合宿/神野)】
正直、あの黒いマスクをかぶった人の印象が強すぎてつい忘れそうになっていたが、
‥‥まあ、相当な事はされていたと思わされた。
水をかぶされたり、
携帯を壊されたり、
ー俺を楽しませてくれよ。なぁ?
‥‥
彼に押し倒された、り‥‥
『‥‥え、っと、』
これを言うべきなのか少し迷っているところに、轟くんの目線が鋭く私を見ていた。
「‥‥なんで、口ごもってるんだ?おい、まさか。何かされたのか!」
『ま、待って。落ち着いて、』
「‥‥落ち着いてられるかよっ!お前が‥連れ去られたって知った身にもなってくれ。」
『…えぇ?』
焦っているようにそう口にする轟くんに戸惑いが隠せない。
駄目だ。うまく隠せる気がしない。
正直に話すべきだろうか。
『あ、えっと…大した事はないよ。水かぶされたり、携帯怖されたり…押し倒されたりしたけど‥‥命に問題がなかったんだし、それぐらい、』
「‥‥は?」
彼は唖然としたまま、なんだか怒っているように見える。
ていうか、そもそも継ぎはぎの人と限定して質問したのはどうしてなの?
『…拷問とかされてたわけじゃないし、それに比べれば、まだいい方、』
「押し倒されたって‥‥、」
轟くんはしばらく考えているしぐさをすると、チラッと私の首元を見た。
「‥‥なぁ、これ、なんだ。」
『え?』
彼が指さしたのは、私の首元に巻き付いている包帯だった。
私からしても目立つこの包帯。
私が起きた頃にすでにこれが巻かれていたので、恐らく、看護師さんが気を遣ってくださったんだと思う。
‥‥多分、だけど、
私の首元には例の継ぎはぎの人が噛んだ形跡が残っている。
「あのヴィランになんかされたのか?」
『え、っと…』
「…見せてみろ。」
『…え?!』
轟くんは問答無用で、包帯を剥がそうとしていた。
突然の行動に驚き、必死に止めようとするが、されるがまま、包帯が解かれてしまった。
「‥‥これ、」
彼の目線の先に見えるものは私には見えない。
彼は首元と私の顔、両方を交差しながら伺う。
『…あ、えっと、嫌がらせでね。つけれたの。』
「!?」
『…でも、本当にこれぐらいで、何もなかったよ?あ、安心して、』
そうやって落ち着かせようと彼にそう問いかけるが、彼は一向に渋い表情を浮かべるだけだった。