第3章 環境の変化【過去編】
『そ、そっか…』
「そもそも、お前のこともあまり覚えてない」
『っそう、なんだ…』
内心複雑な気持ちもあったが、冷静に考えて見ると仕方のない部分もある。あの頃から私たちは7年以上も経っているし、細かな出来事は忘れているだろう。
『…』
自分にとっては、最後の出来事はかなり引きずっていたが、彼にとっては印象に残る程の出来事ではなかったのだろうか。きちんと謝りたいと思っていたが、知らないと言われた以上、謝っても意味がない。
「…それで、要件はそれだけか?」
『え、あ…』
思えばその件で、彼にずっとすがりついている状況が申し訳なくなってきた。しかもこれから学校なのに、行く道を邪魔しているようなものじゃないか。
『引き留めてごめんね。どうぞ、』
「‥‥」
咄嗟に彼に道を開けると、彼は不思議そうに私を見つめては素通りして歩いていった。その様子に本当に自分の事を覚えていないんだな、と実感した。
彼の後ろ姿を見ながら、目的地の学校に私も進んでいった。
学校に到着し教室の門を開くと、ある程度生徒たちが来ており、それぞれ用意されている椅子に座っている事がわかった。自分も空席を探し、辺りを見回すと、
『あ‥‥』
焦凍君が座っていた。同じクラスだったんだ…私の視線に気づいたのか、流し目にこちらを見つめてきた。
「さっきの、」
『...同じクラスだったね』
自分に対して何も覚えてないっぽい彼に、どう接すればいいか一瞬戸惑う。今まで通りに話してもいいのかな。そう考える間もなく彼が話し出した。
「お前、名前は?」
『…え、‥‥一条沙耶、です』
自分にとっては初対面ではないため、改めてそう聞かれるとかなり違和感を感じる。なんとなく、最初の出会いである幼稚園時代を思い出すような雰囲気だった。
「…そうか、これからよろしく“一条”」
『!』
何の感情もなく静かにそう言う彼に、思わずはっとさせられる。小さい頃はお互い名前で呼び合っていて、それが当たり前だったが、中学生になった今、そう呼び合うのは違和感があるかもしれない。
もうあの頃の自分たちではないんだな、と改めて思わされた。
『...うん、よろしくね。“轟”くん。』
この呼び名に慣れるには少し時間がかかりそうだ。