第8章 距離感と興味【原作編(職場体験)】
一瞬理解に追いつけないまま、暖かい温もりに触れた。今彼がどういう顔をしているのかはわからない。
(‥‥なんで?)
そんな疑問を抱いていたが、それよりも先に溜まっていた涙が一気にあふれ出していた。彼が言葉で語らずとも、その行動が何より優しさを秘めていたからだ。
『‥‥っ、う、』
「‥‥‥‥」
何も言わずただそこにいる彼に甘えて、私は目を閉じたまま時が進んでいった。
少し泣き止んだ後、徐々に気持ちが安定していった。そして、今自分は彼の腕の中いて、抱き締められている状態だという事を実感した。
(‥‥あ、)
自分の状況を理解し、頭が冴えてきた。ある意味パニック状態だった。すごく恥ずかしい。
『‥‥あ、あの、』
「‥‥もういいのか?」
『う、ん‥‥スッキリした、』
そう答えて、彼の腕の中から離れてようやく表情を見る事ができた。彼の表情はあまり変わってなく、無表情のまま私を見据えていた。
『な、なんか、急にごめんね。』
「‥‥別に謝らなくてもいい。俺もお前にしつこく聞き過ぎた。」
久しぶりに人前で自分の負の感情を露わにしてしまったので、もし引かれてしまったらどうしようと思っていたが、普段の轟くんで安心した。
「‥‥今のお前がどう思っているか知らねぇが、」
『‥‥?』
「辛い時は誰かに頼って、一人で抱え込まない方がいいんじゃないか?」
『‥‥あ、』
「お前が言った言葉だろ。」
その言葉は、体育祭の頃、私が轟くんに駆け寄って離した言葉だった。まさかその言葉のまま言い返されるとは思っていなかった。
「‥‥まあ、出来てなかった俺が言っても説得力ねぇかもしれないが、」
違うと首を振る。実際彼の言っていることは的を得ていた。
「……もし、また辛いことがあったら言ってくれ」
『……え、?』
「……嫌か?」
『違う、けど‥‥、う、ん』
拒否なんてできるはずもなく、了承してしまった。私の返事に答えるように柔らかい表情を浮かべていた。その表情に思わずドキッとしてしまう。
どうしてそこまでしてくれるんだろう。優しさ以上に「何」かがあるんじゃないかと勘違いしてしまいそうだった。
でも、
(…そんなのありえない)
だって、あの時、
ー悪い。俺はお前の気持ちには答えられない。
貴方は確かにそう言ったはずだから、