第6章 惑溺ナード!【Idia】
「はい、います…」
君はさっき僕にそう言ったよね?
好きな人いるのって聞いたらいますって言ったよね??
イヤイヤ、陰キャでオタクの僕が自分から「す、すす好きな人は、いるの、フヒッ」って聞いたわけじゃないからね。
彼女から聞いてきたんだよ、だから聞き返しただけ。それだけ。
「イデア先輩は好きな人はいますか」って。いやもっと別な言い方だったか?覚えてないや。
けどあの娘は確かに今日の午後、そう聞いてきた。
「お、推しは、いるけど」
するとあの娘は少し笑ったんだ。僕を見て笑った。
それで僕は察してしまったんですわ、ああこの女、「オタクくんには恋なんてできたにしてもせいぜい画面の向こう側の女相手ですよね、わかります(笑)」って思ったなと。
別にそんなのはどうでもいいが。いやそれは強がりだけど…。
問題は、もっと別の部分にある。
彼女の「好きな人います発言」を聞いた時から動悸が止まらないのだ。
何故って答えは簡単っすわ。
僕があの娘を好きだから、愛してるから。
何言ってるか分からない?
散々アンチコメしといてあの娘が好きだなんてどういう風の吹き回しか????って?
わかる。
それは僕が1番「は?」と言いたい。
あの娘が学園長に言われて僕を部屋から引きずり出そうとする。
これは割といつものことだ。
毎度懲りずに、寮長会議に対面で出席しろ、と言ってくるんだ。
でもあの問題児(あの娘のこと)は学園長のことを完全に舐めてかかってる訳で。
彼女はいつも、真剣に僕を連れ出そうとはせずイグニハイド寮に来てベラベラと喋って飽きたら帰っていく。
僕は最初こそ萎縮しまくり、テンパリまくりで、画面でしか見たことの無いJKが今ここにいるという事実に汗ダラダラ流してたのだが。
あの娘が何度も何度もやって来るうちに、僕はタブレットなしで女の子と話すことに抵抗があまりなくなってきた。いや違うな、女の子ではなくてあの娘限定だな。
忙しい僕を捕まえて意味の無い話(あの女子特有の)をされて、本当懲り懲りだった…
なんて言うわけあるか。
僕はこの通りチョロオタでしてあの娘がふにゃふにゃと歌うようにお話するだけで、あんなに無理で怖くて関わりたくなかったハツラツとした無邪気な若者(彼女)と「え、もっといたい〜、好き」だなんて思い始めてしまったんだわ、これが。