第34章 白黒パピーラブ!【Crewel】
彼女は女だから、心の声に従ってクルーウェルのネクタイに手を掛けた。
「じゃあ赤がいいわ」
お転婆はそう言ってネクタイを引っ張り、頬に思いきりキスをする。彼の白い肌に、真っ赤なリップで。
それは仔犬が飼い主の顔を舐める様子によく似ていた。
「先生って本当最悪」
クルーウェルは頬に大きなキスマークを作ってわざとらしく片眉を上げた。
「でも最高」
"確信犯"の顔をして仔犬はコートに埋もれた。
犬が飼い主に似るというのは本当なのだろう。
クルーウェルは彼女を抱き上げ、唇にもう一度キスをした。監督生はそれで、先生の鼻がどれだけ高いのかがよくわかった。
「そうだお前が好きなのは俺じゃない、クルーウェル"先生"だ」
今まで、頭の先を掠めるだけだった掌が、頬に伸びてくる。
「だから俺に、デイヴィス・クルーウェルにお前が恋をするまで俺はお前を口説こうじゃないか」
「逃がさんぞ」とカッコイイ顔で微笑んだ。
どうやらこれから、もっときつくて甘い躾が待っているらしい。
「お仕置もする?」
「ああ、する」
「じゃあこれは?」
抱っこされた仔犬は先生より視線が高かったから、ずっと触れてみたかったホワイトの前髪を触ってみる。
完全無欠を崩してみたくなったのだ。
「おい」
「うふふ」
堪らず、クルーウェルは彼女を地面に下ろして前髪を整えた。
こんな先生は見たことがなくて、監督生は嬉しかった。もし彼女が獣人族なら尻尾をブンブン振っていただろう。
「Bad girlめ」
クルーウェルは彼女の頬を優しくつねったあとで、肩にコートを掛けてやった。
まさにこれが飴と鞭なのだろう。
タバコと香水の匂いがするふわふわに包まれて、仔犬はウットリと目を閉じ彼にもたれかかるのである。
「コートは先生の恋人じゃなかったんです?」
「それがたった今フられたらしい」
薔薇の王国100万マドルの夜景は2人を祝福してはいなかっただろうけれど、たしかに妬んでいたことだろう。
2人は美しかった。
END.